成り立ち
はじめに —泰阜村の在宅福祉の実践について—
長野県泰阜村は、人口2000人、高齢化率38%の伊那谷に開けた自然豊かな山村です。

この泰阜村は20年も前から在宅福祉に力を注いだ福祉先進自治体として知られてきました。その在宅福祉の実践は、在宅を希望する高齢者に、介護保険サービスを超過した分を村で負担してその願いをかなえることでした。

泰阜村のこの試みは、要介護4〜5の在宅サービスには、一人100万円から120万円かかることが実証された貴重なデーターを提供しました。ちなみに当時、同じ介護レベルの要介護者の老人施設の入所費用の平均は約30万円、老人病院の平均入院費用が約60万円といわれていました。

しかし平成18年4月から始まった障害者や虚弱な高齢者を病院や施設から追い出す一連の改革は、林業以外に主たる産業も無く、財政基盤の弱い過疎地の自治体にとって、それに代わる受け皿としての準備が全く整わないままに、医療・福祉の構造的な改革の具体的な打開策を打ち出すことを求めたのです。

そこで考えられたのが以下にあげた「高齢者協同組合」という構想です。これは世界で始めてこれを発案し実践したスウェーデンの高齢者協同組合をモデルに、出来るだけ今日の日本の実情に合わせた形の高齢者協同組合にしようと考えられたものです。

以下に私たちのモデルとなったスウェーデンにおける「高齢者協同組合」の概要についてご紹介します。
スウェーデンモデル
世界初スウェーデンの高齢者協同組合発祥の地

スウェーデンの高齢者協同組合発祥の地はイェムトランド県(Jamtland)のリェーヴィーク村です。
リェーヴィーク村は人口が37人(当時)で65歳以上の高齢者が中心(非常に多い村の形態)。一番近い老人ホームまで65Kmというところでした。この村における高齢者協同組合のきっかけは、孤独な高齢者への二人の女性の共感から始まりました。
この高齢者問題をきっかけに村民自身がリェーヴィーク村の活性化について考え、村で生まれ育った住民が最後まで村で暮らすことを可能にできないだろうかと思うようになりました。
今まで協同組合方式の保育園などはありましたが、高齢者の協同組合の例はありませんでした。
スェーデンモデルの目的

このモデルは、スェーデンの過疎地で「自分たちの老後を国に任せておけない」という自主独立の精神が生み出した、地域住民による協同組合の設立です。この運動は高福祉を売り物にしてきたスウェーデンにおいても、国の財政逼迫による福祉改革により、施設の統廃合が進んで、要介護状態の高齢者が住みなれた村から遠く離れた見知らぬナーシングホーム(特養ホーム)への入所を余儀なくされ、この疎外感がもたらす悲しみへの共感と反発が地域住民を動かして「高齢者協同組合」を設立させました。
自分たち自身が「住み慣れた村で最後まで暮らすこと」を可能にするため、「高齢者共同住宅」を建設し管理・運営するのです。
この構想は自治体にも認められ、何らかの財政的援助を受けられるようになっています。 
この「高齢者共同住宅」が今までのナーシングホームの考え方と全く逆の発想である点に、今回私たちが注目したプロジェクトの特徴があります。
スェーデンモデルの特徴

その第一は、従来の施設のあり方がともすれば地域住民の生活から浮いた存在であった状況を、自分たちの作った、自分たちの共同住宅として直接、管理・運営に立ち入って参加し作り上げていくことを可能にしていったことです。

たとえば施設の運営・管理には欠かせない建物の修繕や点検は、これを得意とする元気な高齢者が喜んで受け持つ、庭木の手入れ(草取りも)はそれを生きがいとする元気な高齢者がマイペースでやる、料理の手伝いや片付けも元気なおばあちゃんがやって来て、おしゃべりを楽しみながらどんどんやってしまうなどの参加があり、一挙両得で村全体が生き生きと活性化し、元気になったことが特徴としてあげられています。同時に村の要介護者たちが、これらの仲間たちに囲まれて毎日を過ごすことができるというものです。

第二の点は、これまで日本の特養が「養老院」の発想から抜け出せずに、入所者を悲しませる要因となっていた数々の禁止事項を撤廃したことです。
撤廃したい禁止事項の一つは、高齢者夫婦のどちらかが倒れて要介護状態になった時、希望すればもう片方の元気な配偶者も共に住人となり、婚姻生活を継続できることです。
要介護状態となった高齢者にも人権があるという考えに立てば特別なことではなく、当たり前のことではありますが、従来の施設ケアでは殆ど配慮されなかった精神的サポートの役割が、そのまま配偶者に果たしてもらえるメリットがあります。

配偶者と共に入居する利点の今ひとつは、見守りケアという役割が任せられることです。入居者が元気な配偶者を通じて、閉じこもりにならずに外の世界との交流を持つことが出来れば、インフォーマルな見守りケアが機能することが予想できます。またこれは緊急な時に人を呼ぶとか、夜一緒に隣に寝てくれる人があるなど様々な点で、従来は人手困難な見守りケアという機能を獲得できることが考えられます。
要介護高齢者が本当に求めていることとは、このような暖かな周囲の抱え環境の中で、最後まで精神的には自立して生きることであると思われます。

禁止事項撤廃の二つめは、家族同様に共に暮らしていたペット、特に犬やネコを連れて入居できるようにすることです。このことは日本においても、要介護高齢者が施設入所を拒む隠れた理由の一つでもあります。
孤独な高齢者たちのペットとの暮らしでは、実の子供以上の依存関係が成立しているということは、さまざまな調査や関係スタッフがその実状を訴えています。これには様々な条件整備が必要と思われますが、犬や猫の予防接種、毎日の犬の散歩や食事の世話など、村の有償ボランティア活躍の場がここにも考えられています。

第三にあげられるこの構想のもう一つの特徴は、自分たちが生き生きと活躍している村の共同体活動そのものを子供たちが見て育つ。世代を超えた生活の知恵の伝達−教育があるということです。