お知らせ
2012年度 NPO福祉フォーラム・ジャパン デンマーク高齢者ケア視察研修報告書
「ネストヴェズ市高齢者施策の概要」
2012年5月8日掲載
報告者 本田玖美子
1.はじめに
キルデマークセンター(高齢者ケア付き住宅)
キルデマークセンター(高齢者ケア付き住宅)
 デンマーク国(以下デンマーク)は人口554万人(2010年)、国土面積は九州と同じくらいの小さな国である。デンマークは近年の経済低迷に加え、人口高齢化による高齢者ケア経費が2倍になるとの試算にもとづき、大規模な行財政改革を実施した。具体的には、2007年1月に従来の14のアトム(県)と275のコムーネ(市)を廃止し、5つのリージョン(region 州)と98のコムーネ(kommune 市)に統廃合。これにより従来は公的な人材で対応してきた保健・医療・福祉のケアシステムを、①全ての「プライエム 特養ホーム」を「ケア付き住宅」に転換・整理統合するとともに、②ITC(情報コミュニケーション)化し、大幅な人件費削減を実現、財政再建を果たした。この改革にいち早く着手したのが今回の視察・研修先ネストヴェズ市である。
2.ネストヴェズ市の概要
 ネストヴェズ市は人口81,000人、市の面積は681Km2、 半分は市街地で残りは郊外(大規模な畑や牧草地)。デンマークの首都コペンハーゲンから車で1時間ほどの距離にあり、労働者の15,000人(18.5%)は市外に通勤し、8,500人(10.4%)は市外から通勤している。公共交通のインフラ(電車・路線バス)が整備され、平坦な地形から自転車の利用も進んでいる。
 ネストヴェズ市の行政は市議会が実行、市長は市議会より選出される。実際の行政運営は、①児童・文化部②職業・介護・保健部③技術環境部④財務部の4部局が司っている。そのなかでも②職業・介護・保健部局が全予算の約48.6%を占めている。
 ネストヴェズ市における行政区画は東西南北に4分割され、必ずその一部に都市部を含み、農村部が福祉サービスの格差の影響を受けないように配慮されている。さらに病院運営等は、保健法に基づき広域行政機構(リ-ジョン)の所轄業務となり、市(コムーネ)は、高齢者ケアサービス等(在宅ケア、通所サービス、リハビリ、高齢者・障害者施設事業、児童教育等)を管轄している。
 ちなみに、デンマークでは病院への入院はすべて家庭医が「ゲートキーパー」(後述)となってコントロールされており、平均在院日数4.5日で基本的に退院後は自宅に戻る。自宅復帰が困難な場合、適切な住居を用意する責任を市が負っている。市が適切な住宅を用意できない場合には法律によってペナルティが課され、市は病院に対して一日約三万円の罰金を払う仕組みになっており、在宅ケアサービスの方向に政策誘導されているといえる。
3.ネストヴェズ市の高齢者施策の実際
 ネストヴェズ市の65歳以上の高齢者は14,119人(17.42%)(2012年2月)、そのうち何らかの高齢者ケアサービス利用者は2,300人(18%)である。 デンマークの高齢者ケアシステムと日本との最大の相違は、子供との同居率6%という事実にもとづく。したがってデンマークでは高齢者ケアは基本的に国が担う以外に手段がない点で福祉制度改革に国民的コンセンサスが得られている。実際、国土が小さく(九州と同じ位)、人口も少なく(兵庫県と同じ位)、システム構築には恵まれている条件にある。
 20年前デンマークにおける「高齢者ケアシステム」は、以下の8つの分野に分けられていた。
①プライエム(特別養護老人ホーム) ②配食サービス ③ホームヘルプ ④訪問看護 ⑤高齢者住宅 ⑥緊急通報システム ⑦補助器具センター ⑧デイセンター
 今回のネストヴェズ市高齢者ケア視察・研修では、従来の「高齢者ケアシステム」が以下のように統廃合され、新たな「高齢者保健福祉ケアシステム」として生まれ変わっていることが確認された。
【高齢者ケアシステム改革の相違一覧表】
旧システム 対象者 利用料 内 容 主な2007年改革内容
①プライエム 1施設15〜16人重度要介護者 年金の範囲内(不足分は市の補助) 全室個室(寝室+シャワー・洗面台付トイレ) ⇒高齢者ケア付き住宅へ(家賃+食費+公共料金)*住居スペースは一般のアパート並みに
②配食サービス 要介護者 プライエムの給食室で調理された食事を保温容器で市の職員二人が配食(含安否確認)*11時〜14時 ⇒ヘルスケア:市の中央キッチンで調理し冷凍or真空パックをメニューから選択.昼食(オープンサンド)or夕食(暖かい食事+サイドディッシュを選択)*週2回まとめて自宅に配達or施設へ配達.(冷蔵庫に収納も可)
⑧デイセンター 虚弱老人+フレンド(健康老人/一般人) 34Dクローネ
(680円)/日
8時~16時まで利用可*10時・3時のお茶+昼食/趣味の手芸コーナー/美容室/手足のケア/リハビリ ⇒自治体のデイセンターor高齢者ケア付き住宅 *リハビリスタッフ(PT.OT.)による機能訓練等の追加.(病院退院後のリハビリ/健康維持トレーニング/障害者に福祉用具給付)
④訪問看護 医師の判断で必要性を指示された人 無料 血糖値チェック.インシュリン投与.カテーテルや酸素交換.吸入.便秘の処置.湿布の処置.傷の治療.緩和ケア.疼痛治療.薬剤投与.注射.中心静脈栄養等 ⇒医師の指示のもと従来の訪問看護業務のいくつかはホームペルパーによる対応が可能となった. *従来の訪問看護はより専門的医療に限定された
⑥緊急通報システム 登録要介護高齢者 無料 市消防署に通報⇒PC登録者カルテで確認⇒訪問看護センターからNS.が自宅へ急行し対応. ⇒詳細不明 (Service Declaration  2007)
③ホームヘルプ 登録・要介護者 無料 コレクティブ方式で地域内約50世帯の要介護者のケアの責任を持つ. ⇒登録要介護者のケア情報をITCにより管理され、ヘルパーの作業効率がupしている.
⑦補助器具センター 身体障害者 無料 リハ.専門家による支給・修理 ⇒レンタル/修理から支給へ
①「プライエム+給食センター」or「デイセンター」⇒「高齢者センター+高齢者ケア付き住宅」
 2007年の改正では、それ以前のプライエム(特養)が廃止され「高齢者ケア付き住宅」が新設された。市の「高齢者ケア付き住宅」は570戸分(約4%)確保されており、残る約1,700人は自宅で24時間在宅サービスを受けている。
市の中央キッチン(配食用調理例)
市の中央キッチン(配食用調理例)
 「高齢者ケア付き住宅」は、部屋の広さが(基本的にリビング+寝室+ミニキッチン+バスルーム/トイレ・洗濯室)と一般的な個人アパートに近い形になっている。入居費用は、家賃:一人用(73m2)、6071クローネ、2人用(81m2)6726クローネに公共料金(水道・光熱費)と食費等が自益者負担となっており、どちらかというと入居希望者に減少傾向が見られるという。改革以前に比べて、現在では高齢者の活動的ニーズが増加し、交流センターで地域の高齢者と共にリハビリスタッフ(PT.OT.)から集団でリハビリを受けることができるようになった。
 私たちが視察に訪れたキルデマークセンターでは、利用者各人が部屋に自分の家具を持ち込み、自由に生活していた。しかし一方で、お年寄り達が自室入口に立ちならび、訪問した私たちを自室に招き入れ交流したがる場面に遭遇した。スタッフ数削減の結果、個々人への精神的ケアが手薄になっている可能性が危惧された。
②個人の医療・福祉・サービスITC(情報の一元化)
 個人をいわば総背番号制にすることで医療・生活情報を電子カルテ化し、病院と家庭医(「ゲートキーパー」(前述))、高齢者ケアセンター間での情報の共有化・一元管理を実施し、これによって住民の保健・医療・福祉に関する個人的なニーズをコントロールし、より経済効率化と質的な標準化がなされた。
③在宅ホームヘルプサービス+訪問看護サービス⇒24時間在宅ケアサービス(ヘルパーの医療行為への役割拡大+訪問看護サービスがより専門的な医療行為に限定)
 2007年改革最大の変更点は、在院日数が4.5日と短くなった分だけ在宅に医療的なケアが移行したことである。同居率6%というデンマーク(前述)では、「24時間在宅ケアサービス」におけるサービス提供の量的な制限はなく、ケア・スタッフの専門職の教育・人材養成に力を入れた。
 具体的には、医師の指示のもと従来の訪問看護業務のいくつかはホームペルパーによる対応が可能となった。

 以上、2012年度NPO福祉フォーラム・ジャパン デンマーク高齢者ケア視察研修における「ネストヴェズ市高齢者施策の概要」を概説した。 我が国の喫緊の課題でもある財政赤字を克服した福祉先進国デンマークの施策には学ぶべき点が多かった。
 一方、福祉専門職の立場からは、本来個々人の生活ニーズに対してオーダーメードで人と人との「温もり」が最も求められるべき福祉の原点を常に確認しつづける必要性も痛感させられた。
 なお、本論は短期間の視察研修における筆者の体験にもとづいており、様々な誤解もあるやと危惧している。ご指摘いただければ幸いである。
高齢者ケア付き住宅の個室例
高齢者ケア付き住宅の個室例